「……わかりました」
ここで拒否しても何かが変わるわけでもない。動悸が激しくなる胸を押さえて、半分夢の中にいるような心地でドアに近づく。一歩、二歩、三歩。
ドアノブに手を伸ばす。
ガチャリ、と妙に大きく響いた。
「伊月さん……?」
愛しい人はタキシード姿ではなく、普通のスーツ姿でそこに立っていた。
それだけじゃない。
「その人たちは……?」
厳しい警官が二人、伊月さんの背後に控えていた。眼光は鋭く、私の底の底まで見透かすように見つめている。
「あの……」
「坂崎美節さんですね」
その中の一人が、淡々とした調子で言った。
「はい……」
「お父様のことで、少々お話を伺いたいのですが」
「父は、その、警察に連れていかれるようなことは何もしていません」
私は勝手に震える足を叱咤して、どうにか踏ん張って立ち続ける。そんな様子をどう思ったのか、無口なもう一人は哀れむように眉尻を下げた。



