その沈黙を破ったのは伊月さんだった。
「わかった、受け取れば良いんだな?」
「はい、私も忘れます」
伊月さんは涼しい顔でバッグを受け取った。その事実に心の中で一安心する。
それでも、最悪捨てられるか手をつけないまま返されるかもしれない。気を引き締めるようにそう思い直した。
伊月さんと私は普通の夫婦ではないのだ。
「それでは失礼しました」
私は一礼して早々に正面玄関へと足を向けた。伊月さんから「やっぱりいらない」と突き返されるのを防ぐために。
伊月さんからの返答はなかったが、同時に突き返されずにすんだと足取りが心なしか軽い。そのままパーキングメーターまで戻り、ガラスをノックした。
「奥様、どうでした?」
「受け取ってもらえました」
正恵さんのキリリと吊り上がった眉尻が元に戻る。彼女は微笑んで「お疲れ様でした」と労ってくれた。
「それじゃあ、戻りましょう」



