今は忙しいみたいだし、落ち着いたらお父さんに知らせるつもりなんだろうか。
「伊月さんに会わせてよ!」
女性の金切り声がダイニングにまでとどろいた。何事だろうと椅子を引いたら、伊月さんが手で制してきた。
「ここにいて」
目を見ながら言われれば私に拒否権はない。その声に焦りのようなものを感じたけれど、確かめる前に行ってしまった。
騒ぎはまだ聞こえてくる。コンシェルジュさんに連絡しようと静かに移動しようとしたときだった。
「どうしてあの女と結婚したの!?」
思わず聞き耳を立ててしまう。聞かないほうが良いとわかっているのに、全身で彼女の叫びを聞こうとしている。
「君には関係のないことだ」
「お引き取りください」
「私を慰めてくれたのは嘘だったの!?」
「あの男の被害にあったのは同情する。それだけだ」
「じゃああの夜は何だったの……?」
女性の泣きそうな声が耳に入って、胃の辺りを冷たい手で撫でられたような気がした。



