騙すなら墓場まで




 現に伊月さんの片頬がひくりと動いた。なんだかんだで正恵さんには弱いよなぁ、と手を合わせた。


「いただきます」

「……いただきます」


 それが合図かのようにインターホンが鳴った。


「失礼します」


 正恵さんは軽く頭を下げると、小走りで玄関へと向かった。今がチャンスだ。


「あの、伊月さん」


 伊月さんは水を飲もうとしていた手を止めてこちらを見る。私は息を吸って、頭の中で練習していたセリフを吐き出した。


「これは本当に私への復讐なんですか?」

「何の話だ?」

「扱いがあまりにもまとも過ぎます」

「言っただろう、父親を奪った俺と結婚して、不幸になってもらうと」


 伊月さんはコップを置いて、軽く身を引いた。


「これはあの男への復讐でもある。娘を含めて、俺はあいつの全てを奪ったと知らしめるつもりだ」


 私はテーブルの下で祈るように両手を握った。お父さんからの手紙には、伊月さんのことなんて一つも書かれていなかった。