「……とにかくこの部屋でお待ちください。落ち着いたら事情を説明しますから」
土門さんにそう言われてはもう従うしかない。私は妙に浮ついた気分で豪奢な椅子に逆戻りした。
これって夢?
それも、とびきりの悪夢。
「……ねぇ、お母さん。どう思う?」
鏡に手を触れてみる。ひんやりとして、硬い。芽生えた少しの現実感が、熱を奪われた指先に集中する。
「……連絡しなくちゃ」
どうして思いつかなかったんだろう。伊月さんに連絡すれば良かったんだ。
小型のテーブルに置いておいたハンドバッグからスマートフォンを取り出す。タップすればすぐ伊月さんに繋がった。
たった数回のコールでも今は煩わしい。どうか、どうか出て。この悪夢を否定して。
「もしもし」
「ああ良かった。伊月さん」
私は文字通り胸を撫で下ろした。彼の声を聞くだけでこんなにも安心したのは初めてだ。



