口にするとごま油の香ばしい匂いが広がった。
「美味しい……!」
「ありがとうございます」
正恵さんは軽く頭を下げ、「お風呂の準備をしてまいります」とバスルームへと消えていった。様子がおかしいとは思われていないようで、とりあえず食事を済ませることにした。
何食分になるかな、と今でも考えてしまうけれど、もったいなくて食べられない、とまでは考えなくなったのは進歩だと箸をすすめる。
じっくり噛み締めて夕ご飯を平らげると、風呂の掃除を終わらせた正恵さんが戻ってきて「煎茶を淹れてまいります」と声をかけてきた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
しかし怒涛の一日だった。
時計を見ながらぼんやりと振り返る。
萩野さんからの電話、土門さんとの再会、お父さんからの手紙。
そして、伊月さんの対応。
あれが復讐の一つだとしたら、とても手ぬるいとしか言いようがない。十数年かけてお父さんを捕まえた人と本当に同一人物なのか、疑問が残る。



