正恵さんはまだ怒鳴っていたけれど、伊月さんは意に介さずドアを開ける音を響かせた。
「今日も遅くなるから、先に休んでくれるよう伝えてくれ」
「坊っちゃん!」
非難混じりの制止にも動じず、ドアを閉める音が聞こえてきた。私はクッションを抱えテレビの電源を入れる。ちょうどニュースが終わるところで、妙にテンションの高い声で始まった天気予報に集中している振りをした。
「奥様、お待たせしました」
「ありがとう」
ニコニコの正恵さんがほうじ茶を持ってきてくれた。これでテレビに夢中でさっきの会話は聞いていないと思ってほしい。
「……その、遊びに行ったぐらいで気を落とさないでくださいね」
「いえ、これからは予定をちゃんと伝えます。遊びに行ったことは咎められていませんから」
私は首を軽く横に振ってほうじ茶を口に含んだ。正恵さんは私が聞いていると気づいているのかいないのか、これではちょっとわからない。



