騙すなら墓場まで




「萩野さん、今日はありがとう」

「ううん。何かあったら連絡してね」


 レジデンスの共用玄関前で別れると、コンシェルジュさんへの挨拶もそこそこに部屋へと戻る。一分一秒でも早くお父さんからの手紙を読みたかった。



 伊月さんが帰っているかもしれない。そう考えることもなく。



「お帰り、早かったな」

「あ……」


 ドアを開けると、伊月さんが仁王立ちで腕を組んでいた。眼光は鋭く、心の底まで見透かそうとしているようだった。


「旦那様! お待ちください! 奥様はご友人と遊びに行っただけです!」

「そうか、本人の口から聞かせてもらおう」


 伊月さんの後ろに控えていた正恵さんが動けなくなった私を庇ってくれた。そちらには目も向けず、私に説明を求めて一歩前に出る。


「萩野さんと……その、おしゃべりしてました」


 本当のことなんて言えるわけがない。知られたら手紙は必ず奪われて二度と読めなくなってしまうだろう。