騙すなら墓場まで




「坂崎さん……いえ、美節さんとお呼びしたほうが良いかな?」

「お父さん、気が早いですよ」


 お二人の反応は変わらない。和やかな会話が伊月さんとの間に続き、雰囲気は見送られるまで穏やかなままだった。

 拍子抜けしたが、お二人は高潔な方々だから顔や態度に出さないのだろうと結論づけた。伊月さんを引き取った方々だもの、善良に決まっている。

 最後に車はレジデンスに着いた。コンシェルジュに見送られてエレベーターに乗る。しみや汚れ一つない世界は本当に久しぶりで、過去を思い出しそうになる。


「どうかしたか?」

「いえ、その……指が気になって」


 私はあかぎれだらけでボロボロの指を見せた。かつてのような装いの中で、唯一この指先だけが私の罪を象徴するように悪目立ちしていた。


「確かに、その手だけはどうにもできないな」


 伊月さんが眉根を寄せた。

 私の手足が急速に冷えていく。やってしまった。


「大丈夫です、なんとかします」