「何これ……」
私の独り言に、伊月さんは目頭を揉みながらスマートフォンを操作した。
「君の部屋が荒らされた」
アパートの周りにはパトカーが止まり、近所の人たちが集まって騒いでいた。警察の人たちが何人か出たり入ったりしているけど、部屋の様子はここからではわからない。
「何も盗られてはいなかったが、部屋中に落書きされていたそうだ」
「落書き、ですか」
そこで伊月さんは言葉を切った。そっと横目で見ると口を薄く開いたり閉じたりしている。
「その……君の父親がしたことについて」
伊月さんは窓の外に顔を向けながら話してくれた。私といえば、自分でも驚くほどショックがない。
ただ、苦しむ人たちはまだ数え切れないほどいると膝に視線を落とした。
「これからどうするつもりだ」
伊月さんの無感情な声に、一気に現実が押し寄せてくる。仕事も家も一瞬で失ったのに、感傷に浸っている場合じゃない。



