「とにかく着替えて、玄関で待っていらっしゃるから」
私は夢の中にいるような気分でロッカールームに戻り、着替えたばかりの服をまた着替える。“迎え”とは誰のことなのか全く検討もつかないけれど、考えられるだけ考えてみる。
萩野さん?
土門さん?
もしかして……お父さん?
ありもしない妄想を振り払うように傷んだジャージを羽織る。下はスウェットで毛玉が無数、サイズも合っていない。
髪も傷んで化粧もしていないし、靴は安物のスニーカーだ。
「お待たせしました」
私を誰が待っているのかはわからない。それでも職員専用口から出て玄関口へと回る。
「逃げられたかと思った」
足に根が生えたかもしれない。頭の片隅でそんなことを思った。
絶対に、ここにいるはずのない人がここにいた。
「伊月さん……」
彼は無表情で車のドアを開けた。
「乗ってもらおう。言っておくが拒否権はないからな」
「……どういうことですか?」
私の問いに、伊月さんは「乗ればわかる」とだけ返した。



