騙すなら墓場まで




 伊月さんはドアを押さえて私が通るのを待っていてくれた。訳がわからない。だけど、仕事にやっと戻れるのだからと考えないことにした。


「君は……変わってないな」


 思わず足を止めた。

 言葉の意味を聞き返したかったけど、もうずいぶん時間が経ってしまっている。今から大急ぎで掃除しても間に合うかどうか。

 結局、私は振り返ることなく急いで二階に戻った。幸いにも冬原さんは帰ってきてない。私はダスターを急いで器具に取り付けると、さっきの記憶を消すように大慌てで床のちりやほこりを払う。

 それでも彼の顔も声も消えてくれなくて、緊張からか耳鳴りがする。キーンと響いて苦しい。


「これきり……」


 四文字を口に出してみた。そう、あの人に会うのはこれきりだ。不運にも偶然が重なって再会をしてしまった。

 あの冴え冴えとした表情を思い出す。出会ったときより精悍で、元気そうだ。


「良かった」


 ポタリと、ダスターに雫が落ちた。