騙すなら墓場まで




「……」

「……」


 私はドアを閉めた。

 ドアはすぐに開けられる。


「……こんなところで働いていたんだな」


 後ろ手にドアを閉めるその人を、私は片時も忘れたことなんてなかった。どれだけ忘れたいと願っても、同じだけ忘れたくないと執着した人。


「あの、仕事があるので」

「どうして何も言わずに逃げた」


 伊月さんは冷厳な表情を崩さずに腕を組んだ。答えるまでどくつもりはないらしい。


「……会わせる顔がありませんでしたから。それだけです」


 嘘偽りない理由だった。

 彼の人生だけではない。数え切れないほど多くの人たちの悲嘆と怨恨の上に私の幸せは成り立っていたのだ。彼だけではない、世間に顔向けは一生できないと、この世の片隅でひっそりと生きていこうと誓った。

 資産と呼べるものは全て手放して、被害者の救済に充てた。被害者団体の弁護士さんに、余剰分が出るほどだと言われたときは強張っていた肩から力が抜ける思いだった。