騙すなら墓場まで




「伊月さん」

「……邪魔したな、またあとで」


 伊月さんは私の背後にいた萩野さんを見ると、すぐにドアを閉めようとした。


「大丈夫です、もう終わりましたから」


 萩野さんはいそいそとした調子で私たちの隣りを通り抜ける。ウインクと「ごゆっくり」なんて可愛らしい声を残して。

 いっそ尊敬してしまう素早さに唖然とする暇もなく、伊月さんが部屋に滑り込んで私を抱きしめてきた。


「伊月さん……?」

「……綺麗だ。それしか言えない」


 伊月さんの小さく、感じ入るような声に私も甘酸っぱいものが込み上げる。


「伊月さんもかっこいいです」


 黒いフロックコート姿はかっこいいだけではなく美しい。黒豹を思わせる鋭さに、非現実味を感じてゾクゾクしてしまった。

 ……私、危険な魅力に惹かれてしまうタイプだったっけ?

 もしかして伊月さんなら何でも良いのかもしれない。