「まさか清掃員をしているなんて、思ってなかったでしょう?」
私が悪戯っぽく笑うと、伊月さんは苦笑した。
「ああ、びっくりしたよ」
「報復のために私と結婚したいと言い出したのは──」
「そう言えば、罪悪感にかられて結婚してくれると踏んだんだ」
伊月さんはさりげなく視線を外した。
「それで……ずっと結婚生活を続けていくつもりだったんですか?」
「そう、だな……なぁなぁで次第に絆されてくれるよう、少しずつ距離を縮めるつもりだった」
「私があなたを好きだとは、微塵も考えなかったんですか?」
伊月さんが瞠目した。頬も耳も熱かったし、心臓もうるさくてたまらなかったけれど、私は彼の目にひたと照準を合わせた。
「好きです。あなたに初めて会ったときから」
そうだ。父のことがあって絶望しても、世間の目から隠れて生活しているときも、私は伊月さんが好きだった。
彼を想いながら、ひっそりと自分の人生を終えようと決めていた。



