生涯独身だった叔母の死後、代々木のマンションと銀座の画廊の経営権を手に入れた。叔母はとても無口な人で亡くなるまで腫瘍があることも、ガンセンターに通っていることも告げずこっそり諸手続きを進めていたそうだ。唯一、姪の私とはFAXのやり取りはしていて、亡くなる三日前には印鑑登録や印紙を頼まれて画廊の近くの資生堂で食事をしていた。旅行に出かけるようなそぶりで 鍵束と小さなジュラルミンケースを預かった。
叔母の死後、母の反対を尻目にすぐ代々木に引っ越した。

トルコキキョウを部屋いっぱいに飾り、叔母の愛用していた香水で満たすと、小さい頃から憧れだった彼女の髪の匂いを思い出した。