玉響の一花    三

筒井さん‥‥
返事をしてくれなかった‥


それどころか目も合わせてくれないまま
玄関に行ってしまった‥‥


忘れてた私が勿論悪いのだから、
後でちゃんと謝らないといけないけど、
こんなこと初めてで既に不安で
泣きそうになってしまう



『かっすみちゃーーん!!
 ウェルカム マイ ハウス!!』


『は?お前の家じゃないだろ?』


『俺の家の財産でもあるから俺の
 家でもあるの!もういちいち滉一君
 はネチネチして‥‥さてと、
 お休みの日に特別に無料で話を
 聞いてあげるとしようじゃないか。』


無駄に明るい蓮見さんに助けられ
ながらも筒井さんの事がどうしても
気になってしまう


「蓮見さんありがとうございます。
 筒井さんに伝える前に蓮見さんの
 許可が必要な話だったので、
 お時間くださって助かります。」


『どういうことだ?』


ドクン


少し低めの声で壁にもたれて腕組みを
する筒井さんが、私の方を真っ直ぐと
見つめて来たので俯かず前を向いた


「ちゃんと話しますので、一緒に
 話を聞いてもらえますか?」


『‥‥‥分かった。』


珈琲を3人分淹れてから、
ダイニングテーブルに座ると、
胸に手を当ててから深呼吸をして
話を始めた。


「11月にスイスとフランスで行われる
 海外出張の件のことなんです。」


『ああ‥‥そんな社内報あがってたね。
 もしかして行きたいとか?』


「はい‥‥こんなチャンスないので、
 応募したいのですが、万が一
 受かっても、受付が1週間
 佐藤さんだけになってしまうので
 直属の上司でもある蓮見さんに
 聞いてからにしたかったんです。」


黙って珈琲を静かに飲む筒井さんと
蓮見さんが目を合わせると、私の
方を向いてニコッと笑った


『相談してくれてありがとう。
 確かに受付を1人でこなすのは
 無理だけど、総務課には受付経験者
 も数人いるし、秘書課にも応援を
 頼むことだって可能だから、
 応募だけでもしてみたらいいよ。』


えっ?


ダメだって断られると思ってたから、
嬉しくて口元に手を当ててしまった


『月曜日に俺も上に相談してみるけど、
 多分挑戦しようとしてる人を
 応援しない会社じゃないから、
 心配しなくてもいいと思うよ?
 総務課はみんないい人ばかりだし、
 霞ちゃんの事もみんな好きだから。』


「蓮見さん‥‥ありがとうございます。
 選ばれる確率は低いと思いますが、
 応募してみたいと思います。」


総務課の先輩方がいい人達なのは
私も分かってるけど、私の独断による
勝手な行動で、迷惑がかかることに
不安しかなかった