玉響の一花    三

赤いカーネーションと霞草には、
生前お会いできなかった思いと、
筒井さんと出逢えた幸せをくださった
ご両親への感謝の気持ちを込めて
花束の中に少しだけ入れさせて頂いた


いつもそばでご家族がきっと
見守ってくださっているとは思うけど、
生きていたらきっと、今の筒井さんを
見て誇りに思うはずだ


私では力不足ではあるけれど、
この先も側で寄り添って倒れないように
支えられる人でありたい‥‥‥


「ふぅ‥‥暑いですね‥‥
 私向こうでお水汲んできます。」


2人でお墓周りの草取りや掃除を
してからお花を花立に飾り、筒井さんが
線香にライターで火をつけたあと、
煙草にも火をつけ供えた。


『父親が煙草が好きでさ‥‥』


筒井さん‥‥


少しだけ寂しそうに笑う姿に思わず目頭が熱くなるも、その場に屈んでから
手を合わせ挨拶をさせていただいた。


引っ越す前にこうしてきちんと
挨拶に来ることが出来て良かった‥‥


以前お写真で見せて頂いたご家族の
顔を思い浮かべながら手を合わせると
立ち上がった筒井さんに肩を抱かれ
暫く2人で何も言わずそのままその場
から動かなかった



その日は筒井さんの家に泊まると、夜は
優しく丁寧に隅々まで体中に熱を注がれ
朝方までその温もりを受け入れたのだ



「おはようございます。
 転居届けですが来週からで
 よろしくお願いします。」



ニコニコ笑顔の蓮見さんのデスクの
前に昼休み休憩を使って赴くと、
書類を受け取ったあともその紙を見て
ニヤリと笑うだけだった


知り合いというか知ってる人に
こういうことを改めてお願いするって
とても恥ずかしい‥‥



『君たち俺が責任者でよかったよねぇ。
 ま、いつかはバレる日が来るから
 その辺はアイツが何とかするでしょ。
 とりあえずおめでと。』


「‥‥ありがとうございます。」


書類にハンコをポンっと押すと、
溜め息混じりのホッとしたような顔で
笑っていた


『コダ、これ入力お願いしてもいい?』


えっ?


私の渡した書類を古平さんに
向けてヒラヒラと仰ぐことより、
呼び方がコダチャンからコダに
変わっていることに驚いている


『蓮見さん、書類で遊ばないで
 ください。井崎さんごめんね。』


バッと蓮見さんの手から書類を抜き取る
と、睨みをきかしてからまた席に
戻る姿に呆気に取られ、もう一度
蓮見さんを見るとクスクスと笑っていた