玉響の一花    三

簡単に隣町に行くか?
くらいのテンションで言うけど、
フランスが遠いことは1年待ってた
時に何度も感じたから簡単には
行けないのに‥‥


「はい‥いつか行きたいです‥‥
 せっかくフランス語も学んだし、
 筒井さんが見た街並みをこの目で
 見たいです。」


画面に写るパリの街並みをいつか
自分で歩いてみたい‥‥


『フッ‥お前と2人で行くって意味で
 言ったんだけどな?』


えっ?


パソコンを閉じると、
肘をついていた筒井さんが寝転んで
私の腰を引き寄せて抱き締めた


「ッ‥筒井さん!」


『‥少し俺たちも寝よう。』


「こ、ここでですか!?」


『今日はあったかいし風も
 気持ちがいいから付き合え。』


ドクン


腕の中に私を閉じ込めると、
私がプレゼントしたブランケットを
上からかけてくれた


みんなが起きる前に起きないと、
後で絶対また何かを言われそう‥‥


筒井さんは前からそういうのには
動じないというか気にしないのか、
私が1人で常に焦っているだけ。


少しすると規則正しい寝息が聞こえ、
そっと上を見上げるとその寝顔を見た。


私より先に眠ることって
なかなかないから寝顔を見れることって
貴重で嬉しいな‥‥‥


この状況は恥ずかしいけど、
多分何を言っても離しては
もらえないと思うから観念して
私も瞳を閉じた。


会社ではオンオフを分けて働いて
いるため、筒井さんと私はただの
上司と部下として過ごしている。


管理職という立場で部を纏める
筒井さんは、勤務中に滅多に私情は
挟まない人だ。


話し方、態度も今みたいに柔らかくなく
表情すら全く違う。


こんな姿を見れるポジションに
自分がいること‥‥。
それをこんなにも近い場所で感じれる
ことが今でも凄いことだと思ってる


蓮見さんも勿論仕事が始まると、
厳しいけど、基本女性には甘く
親しみやすさも出すけど、筒井さんは
一言で言えば冷静だ



『どうした?』


夕飯を食べてから
別荘の裏側の丘のベンチに座り、
星空を見ながらチョコレートを
食べていると、筒井さんが私のチョコを
一つ口に含むと心配そうに覗き込んだ



「‥筒井さんは以前、営業部にいて
 そこから面談して人事に
 変わられたんですよね?
 ご自分で希望されたんですか?」


私は自分で決められなくて、
筒井さんの人事側のアドバイスを
受けて受付にいる。


勿論まだまだだと思うし、
今の仕事はとても好きだけど、
以前聞いた受付の年齢制限を聞いてから不安はなんとなくあったのだ。


『人には向き、不向きが必ずある。
 自分ではそれが向いてるって
 思ってたつもりでも、実は
 そうじゃないって気づく時が
 あったりもするんだよ。
 俺の場合は苦手なものに踏み込んだら
 偶々やりがいを感じられただけだ。
 今もそれが正解かは分かってない。』


えっ?