玉響の一花    三

イリスさんともとても流暢な
会話をされていたし、フランスで
生活しながら働けるのだから、
相当自信がないと難しいと思う‥‥



『海外の仕事に興味があるらなら
 元輝やオリヴィアに聞くといい。』


えっ?


珈琲を飲む姿でさえ絵になる筒井さん
からのまさかの提案に驚いた。


確かに外国でお仕事をすることを選んだ
元輝さん達なら私が知らない事や
アドバイスが沢山貰えそうだ‥‥


「ありがとうございます‥この機会に
 色々な話を聞いてみたいです。」


私と筒井さんが出会ったこの安らぎの
癒しの場所で、珈琲を飲みながら
こんな話が出来る日が来るなんて
思っても見なかった。


数年前までは、カウンターの端から
眺めることしか出来なかった人が、
今こうして隣に並んでくれている


私を責めることも、貶すこともせず、
ただ隣に立ち背中を押してくれる
優しさに、思わず目頭が熱くなった。



『もし疲れてなかったら、来週末
 うちに泊まりに来ないか?
 元輝たちとも夜までゆっくり話が
 出来るだろうから。』


「はい‥嬉しいです。
 もし良かったら皆さんにご飯を
 作ってもいいでしょうか?」


マンションまでいつものように送って
もらい、筒井さんが煙草を吸いながら
白い息を色っぽく吐く姿に見惚れる‥


大したものは作れないけど、
日本の家庭料理のようなものを、
フランスに帰る前に食べてもらいたい‥


筒井さんが帰国された時に、
日本食の美味しさを改めて感じた
ように、元輝さんには勿論だけど、
オリヴィアさんにも食べやすい
日本食を何か作りたいな‥‥


『俺も拓巳達もみんなお前の作る
 ご飯が好きだからな‥‥金曜日、
 仕事が終わったら一緒にスーパー
 に行こう。』


大きな手がクシャッと私の頭を
撫でてから優しく笑うと車の陰で
触れるだけのキスを落とされた。



『フッ‥‥お前のその恥ずかしがる
 姿はいつまで見れるんだろうな。』


「そ、そんな‥‥ッ‥こんなの
 慣れる日なんて来ませんから‥ッ。」


肩を抱かれながらも腕の中でククッと
喉を鳴らすように笑われ、その胸に
顔を埋めた



出会ってから5年以上‥‥
いつまで経ってもドキドキするのは、
私が筒井さんの事が好き過ぎるからかも
しれないけど、素直な感情だから
許して欲しい‥‥


『それじゃあまた来週‥‥。
 ゆっくり体を休めておけよ?
 アイツらが来ると寝られないから。』


車で帰る筒井さんを見送り、
日曜日は常備菜を作ったり、
本を読んだりしながらお家でゆっくり
過ごしていた。