玉響の一花    三

金田部長は3年前入社した時に、
最終面談をしてくださった方の一人で、
筒井さんの上司という事くらいしか
分からない。


黒縁の眼鏡をかけて、髪もシンプルに
纏めているけれど、細身のベージュの
パンツスーツがよく似合っていて
仕事が出来るカッコいい女性像の
お手本のような方だ


『で?筒井君が呼び出すほどの
 案件なら聞きますが‥‥1人は
 名古屋から異動で来た飯田さんね。
 そしてもう1人は受付の井崎さん。
 ‥‥となるとあの件しかないな。』


話し方も男勝りな金田部長と筒井さんが
向かい側に腰掛けると、まるで面談を
始めるかのような対面スタイルに
どこを見ていいかわからなかった。


『飯田さんが今回の人事選考に
 納得がいかないようなので、
 エントランスで話すわけにもいかず
 この場に連れて来ました。
 遅くに申し訳ありません。』


筒井さん‥‥‥


上司にこんなことで謝らせて
しまうなんて胸が酷く締め付けられる


『うーん‥なんとなくは察するけど、
 飯田さん。今回の選考に不満が
 あるなら、本人に直接言わず、まず
 人事を通すべきではないですか?』


『それは‥‥そうですが‥‥』


『では、今回井崎さんではなく、
 私が選ばれていたら同じように
 問いただしましたか?』


えっ?


部長の質問に驚いて顔を上げると、
筒井さんと一瞬目があってしまい
慌てて逸らした。


私ではなく部長が選ばれたら?


『私は、選考基準がどのようなものか
 分かりませんが、金田部長が
 行かれるのであれば異論はなく
 従うのみです。井崎さんに関しては、
 表彰や目に見えた結果もなく、
 フランス語が話せるだけということで
 選ばれたのであれば、私はやはり
 納得は出来ません。』


『そうですか‥‥。
 私もここでのキャリアはありますが、
 フランス語は全く話せない。
 それでも現地に行って役に立つと
 思いますか?』


『えっ?そ、それは‥‥』


黙ってしまった飯田さんの方を
見ることもできないでいると、
金田部長とバッチリ視線があってしまい
何故かニコッと笑われた。


『では、井崎さん。
 あなたなら私が選ばれたらどう
 思いますか?』


ドクン


まさかの自分への質問に、ただでさえ
緊張からか頭がパニック状態なのに、
生唾をゴクンと飲み干した


静かな会議室で3人からの視線を
受けながら、回らない頭で考えた後
深呼吸をしてから口を開いた。