海の泡になる方法

チャイムが鳴り、担任が入ってくる。
今日もいつも通りの日がはじまる。
窓から吹く風は海沿いならではの潮の匂いと、じめったさがある。
感じ慣れたこの風のせいで今日も髪は少しからまっている。
昨日凪咲に会ったからか、“いつも通り”に安心してしまう。
いつも通りとは人間が日々の生活の少しの変化をいちいち表さないで済ませるための都合のいい言葉だと思う。
歌詞ではよく、変わらない日なんてない。今日は今日しかない。
などという言葉が羅列しているが、実際そうだと思う。
だから一日一日を大切に過ごさないといけない、という結論に至るのだが、そんなことをできる人が本当にいるとは到底思えない。
そして朝から脳内論争をしている今日は一限から数学だ。
さらに、今日は六月二十日。
俺の出席番号は二十番なので今日はなにかしらの授業で当たるだろう。
二限の生物は要注意だ。
今、俺たちの前で呪文のような数式説明をしている数学の教師は基礎を徹底するのが大事だと言って基礎だけを何度も説明する人だ。
たしかに基礎を徹底することは大事だと思うが、みんなもう理解しているのに何度も説明をする必要はないと思う。
加減というのは大事だ。
実際、クラスメイトたちは「あの先生はやく進めて欲しいよな」とか「応用解きたいのに」などの不満をもっている。
もちろん不満を持たない派閥もあるわけで、その人たちの言い分は「どうせ進学しないから基礎を学んでるだけで十分」や「一回聞いておけば寝れる」というものだ。
俺はどっちかといえば前者だ。
仲が良いといえるであろう男子グループは進学希望がほぼいなく、前者を鬱陶しく思っているので、俺はなにも言わないでおくのが平和への近道といえよう。
いや、別になにか揉めているわけでは無いが、嫌われる要因になることを避けるのが人間というものらしい。