名前のない香水

保健室は、
外の喧騒が嘘みたいに静かだった。

ベッドに横になると、
天井が、少し遠い。

安心したのか、
それとも、張っていたものが切れたのか。

胸の奥が、
急に重くなる。

息を吸うのも、
さっきより少しだけ苦しい。

——あ。

一花は、
目を閉じたまま思った。

あのまま、
グラウンドにいたら。

応援の声の中で、
足が動かなくなっていたかもしれない。

みんなの前で、
倒れていたかもしれない。

そう考えると、
背中に、冷たいものが走った。

桐谷くんの顔が、
浮かぶ。

迷いなく、
「休もう」と言った声。

普通を奪うみたいで、
少し、嫌だった。

でも。

あれは、
奪ったんじゃなくて、
守ったんだ。

一花は、
ゆっくり息を吐いた。

——後で。

ちゃんと、
伝えないと。

ありがとうって。

まだ言葉にならないまま、
その気持ちだけが、
胸の奥に残った