名前のない香水

グラウンドは、
思っていたよりも、ずっと眩しかった。

笛の音と、応援の声。
アスファルトから立ち上る熱が、
足元から、じわりと伝わってくる。

一花は、その中心に立っていた。

体は、ちゃんと動いている。
息も、まだ乱れていない。

——大丈夫。

そう、自分に言い聞かせる余裕は、
まだ、あった。

けれど、胸の奥が、少しだけざわつく。
心臓の音が、ひとつ、早い気がした。

気のせい。
体育祭なんて、こんなものだ。

一花は視線を前に戻そうとして、

そのまま、
ほんの一瞬だけ足を止めた。

空が、やけに近い。

そのとき。

「一ノ瀬さん」

名前を呼ばれて、
一花は、ゆっくり振り向いた。