名前のない香水


――避けられた、のかな。

一ノ瀬が最後まで顔を上げなかったことが、
なぜか胸に引っかかっていた。

やっぱり、俺。
見た目、怖いのかな。

無口で、無愛想で。
話しかけづらいって、よく言われる。

香水。
香りだけじゃ、ダメだよな。

どんなに柔らかい香りを身につけても、
中身がこのままじゃ、意味がない。

自分自身が、変わらないといけない。
無愛想じゃ、ダメだ。

家では、ちゃんと話せるのに。
弟とも、妹とも、母さんとも。
くだらない話だって、たくさんできる。

なのに、学校では。
話そうとすると、急に緊張して、言葉が出なくなる。

それで結局、誰とも話さなくなった。

……あー、俺、ダメだな。

そう思いながら、桐谷は机の上の自分の手を見つめた。
さっき触れた、小さくて冷たい手の感触が、まだ、そこに残っている気がして。

この胸のざわめきが何なのか、まだ名前を知らなかった。
彼女の存在を、なかったことにはできなかった。