名前のない香水

一発目よりも、
少し遅れて上がった花火。

高く、音もなく昇って、
一拍遅れて、空が割れた。

白に近い光が、
夜空いっぱいに広がる。

眩しさより先に、
胸の奥が、きゅっと縮む。

光はすぐに形を失って、
細い線になって、
ゆっくり、ゆっくり落ちていく。

音だけが遅れて届いて、
身体の奥に、低く残った。

残響。

消えたはずなのに、
まだ、そこにあるみたいな感覚。

一花は、
息をするのも忘れて、
ただ、空を見ていた。

隣にいる桐谷の気配が、
やけに近く感じる。

――そして。

会場の空を覆うように、
クライマックスの花火が続いた。

何発も、重なる光。
何度も、響く音。

最後の一発が、
夜に深く沈んでいく。

拍手と歓声が、
少し遅れて起こる。

それが、
波みたいに引いていく。

次の花火までの、
ほんの、静かな間。

夜空に残るのは、
煙と、光の名残だけ。

そのとき。

隣から、
息が触れるくらいの距離で、
小さな声が落ちた。