名前のない香水

次は、
チョコバナナ。

一花が選んでいる間、
桐谷は黙って待っている。

「どれにする?」
「これ」
一番シンプルなのを指さす。

「桐谷くんっぽい」
「そう?」

ポテトは、
二人で分ける。

紙袋を持つ手が、
何度か触れて、
そのたびに、少しだけ間が空く。

「……人、多いね」
「うん」

焼きそばを買った頃には、
通りの奥の方が、
少しだけ落ち着いて見えた。

「どっか、座れるとこ探そ」

その時だった。

下駄が、
足の内側に、きゅっと当たる。

じわっとした違和感が、
一気に、主張してくる。

歩く速さが、
わずかに遅れる。

「……一花、大丈夫?」

桐谷が振り返る。

「大丈夫」
言葉より先に、
笑ってしまった。

「ちょっとだけ、ね」

慌てたように、
桐谷が周りを見回す。

「座れるとこ……」
「平気平気」

そう言いながら、
一花は、焼きそばの袋を見た。

「せっかく買ったし」

その様子に、
桐谷は何も言わず、
少しだけ歩幅を合わせる。

人の波から、
ほんの少し外れた場所へ。

花火が上がるまで、
あと少し。