医師は、淡々と紙をめくりながら言った。
数値は、
「悪くはないです」
その一言で、胸の奥の力が、少し抜けた。
ただし、と前置きが続く。
無理はしないこと。
疲れたら、すぐ休むこと。
体調の変化があれば、すぐ連絡すること。
入院は、今回は見送り。
その言葉を聞いた瞬間、
母が小さく息を吐くのが分かった。
診察室を出て、
廊下を歩きながら、
私は初めて、ちゃんと呼吸をした。
――行ける。
花火大会のことが、
頭に浮かぶ。
花火より先に、
思い出したのは
桐谷くんの、あの香りだった。
甘くて、
でも、主張しすぎない優しい香り
今年の夏は、
全部じゃなくていい。
ほんの一日、
ほんの数時間。
それが無理だと、
どこかで分かっていても。
私はそれを、選びたい。
その時間だけは、
普通の高校生で、いたい。
病名や数値で自分を定義される場所から、
あの一瞬の光の中へ。
名前をつけられない、あの関係のまま、
ただの私として彼の隣に立ちたい。
私は母の横で、そっと拳を握った。
夏は、まだ続く。
数値は、
「悪くはないです」
その一言で、胸の奥の力が、少し抜けた。
ただし、と前置きが続く。
無理はしないこと。
疲れたら、すぐ休むこと。
体調の変化があれば、すぐ連絡すること。
入院は、今回は見送り。
その言葉を聞いた瞬間、
母が小さく息を吐くのが分かった。
診察室を出て、
廊下を歩きながら、
私は初めて、ちゃんと呼吸をした。
――行ける。
花火大会のことが、
頭に浮かぶ。
花火より先に、
思い出したのは
桐谷くんの、あの香りだった。
甘くて、
でも、主張しすぎない優しい香り
今年の夏は、
全部じゃなくていい。
ほんの一日、
ほんの数時間。
それが無理だと、
どこかで分かっていても。
私はそれを、選びたい。
その時間だけは、
普通の高校生で、いたい。
病名や数値で自分を定義される場所から、
あの一瞬の光の中へ。
名前をつけられない、あの関係のまま、
ただの私として彼の隣に立ちたい。
私は母の横で、そっと拳を握った。
夏は、まだ続く。
