名前のない香水

夏休みが始まって、最初の通院日。

朝の空気は、もうすっかり夏だった。
駅までの道、アスファルトは陽に照らされて白っぽく光っていて、
制服姿の学生は、もうほとんど見かけない。

その代わりに、
ベビーカーを押す人や、日傘を差した大人たちが行き交っている。

私はその流れの中を、少しだけゆっくり歩いた。
無理をしないように、息が上がらないように。

病院に近づくにつれて、
空気が少し冷たくなる気がする。
理由は分かっている。
冷房の効いた建物と、
いつも同じ場所へ向かっているという感覚のせいだ。

自動ドアが開くと、
消毒の匂いが、はっきりと鼻に届いた。
それだけで、体が「病院だ」と思い出す。

受付の前には、
同じように番号札を持った人たちが静かに並んでいる。
テレビの音は小さくて、
時計の秒針だけが、やけに大きく聞こえた。

採血には、もう慣れている。
針の痛みも、消毒の匂いも。

それでも今回は、
いつもより、少しだけ緊張していた。

誰かと約束があるだけで、
体調のことが、少しだけ怖くなる。

結果は、一週間後。

その数字ひとつで、
今年の夏の過ごし方が、決まる。