名前のない香水

さっきのことは、気のせい。

そう思うことにした。

触れた手も。
甘い香りも。

胸のざわつきも。

全部、忘れる。

――夢がいれば、それでいい。
夢は、私の唯一の親友だ。

だから。

さっきのことも、気のせいだと思う。
暖かかった手も、甘い香りも、胸のざわつきも。

気にしてはいけない。
そう、何度も心の中で言い聞かせる。

桐谷くんは、私とは違う世界の人。
関われば、きっと苦しくなる。

私はノートに視線を落とし、
自分の心にそっと蓋をした。