名前のない香水

夜の部屋は、静かだった。

窓の外から聞こえるのは、
遠くを走る車の音だけ。

一花は、ベッドに座ったまま、
スマホを手に取る。

検査の結果。
医師の言葉。
「無理はしないこと」。

全部、頭の中に残っている。

それでも——

(短い時間でもいい)

(最後までいなくてもいい)

(途中で帰ってもいい)

浴衣を着て、
夏の夜に出て、
花火を見る。

その“一瞬”だけでも、
行きたいと思った。

指先が、
少しだけ震える。

画面に表示された名前。

桐谷。

深く息を吸って、
文字を打ち始めた。

この前言ってた花火大会なんだけど

行こうと思います

よかったら、一緒に行きたいです