名前のない香水

診察室は、
相変わらず静かだった。

白い壁。
低く響く機械音。
カーテン越しに伝わる、外の気配。

一花は椅子に座ったまま、
膝の上でそっと手を組む。

「……じゃあ、結果だけどね」

医師はモニターに映る数値を指でなぞりながら、
淡々と続けた。

「大きく崩れてはいない」
「ただ、安定しているとは言えないかな」

その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が、すっと冷える。

やっぱり、という気持ちと、
少しだけ抱いていた期待が、同時にほどけた。

「日常生活は問題ないと思うよ」
「でも、無理はしないこと」

一花は、小さく頷く。

「夏休みは……」

言いかけた言葉に、
医師は少しだけ声を落とした。

「状況次第だね」
「数値によっては、検査入院も考える」

白い天井。
病室。
遠くで聞く、花火の音。

「……わかりました」

自分の声が思ったより落ち着いていて、
一花は少しだけ驚いた。