名前のない香水

文化祭は終わった。

でも、
あのとき芽生えたものは、
まだ、名前がつかないまま残っている。

それが、
消えないように。

それが、
輝きすぎないように。

一花は、
今日も答えを出さないまま、
いつもの帰り道を歩いていた。

それなのに——

一花の中だけ、
まだ終わっていなかった。

*

(どうしよう)

夏休み。
花火大会。

頭に浮かんだだけで、
胸が、少しだけざわつく。

体調のことを考えると、
正直、不安はある。

人も多いし、
夜だし、
途中で具合が悪くなるかもしれない。

でも——

桐谷くんに、
そう言われたことが、
ただ、嬉しかった。

理由なんて、
それだけで十分だった。

高校生になったら、
浴衣を着て、
友だちや誰かと花火大会に行く。

そんな普通のことに、
ずっと憧れていた。

高一も、高二も。

夏休みは、
検査入院の予定で埋まっていた。

数値が悪ければ、
帰れる日が延びて。

花火の音を、
病室の窓越しに聞くだけで、
外に出ることはできなかった。

(……今年も、同じになるかもしれない)

そう思うと、
期待するのが怖くなる。

それでも——

胸の奥に残る、
あの誘いの声が、
消えてくれなかった。