名前のない香水

文化祭は終わった。

でも、
あのとき芽生えたものは、
まだ、名前がつかないまま残っている。

それが、
消えないように。

それが、
輝きすぎないように。

一花は、
今日も答えを出さないまま、
いつもの帰り道を歩いていた。

それなのに——

一花の中だけ、
まだ終わっていなかった。



(どうしよう)

夏休み。
花火大会。

頭に浮かんだだけで、
胸が、少しだけざわつく。

体調のことを考えると、
正直、不安はある。

人も多いし、
夜だし、
途中で具合が悪くなるかもしれない。

でも——

桐谷くんに、
そう言われたことが、
ただ、嬉しかった。

理由なんて、
それだけで十分だった。

高校生になったら、
浴衣を着て、
友だちや誰かと花火大会に行く。

そんな普通のことに、
ずっと憧れていた。

高一も、高二も。

夏休みは、
検査入院の予定で埋まっていた。

数値が悪ければ、
帰れる日が延びて。

花火の音を、
病室の窓越しに聞くだけで、
外に出ることはできなかった。

(……今年も、同じになるかもしれない)

そう思うと、
期待するのが怖くなる。

それでも——

胸の奥に残る、
あの誘いの声が、
消えてくれなかった。