名前のない香水

倉庫の中は、思ったより冷えていた。

コンクリートの床から、
じんわりと冷気が上がってくる。

一花は、無意識に肩をすくめた。

それに気づいたのか、
桐谷が、そっと上着を脱ぐ。

「……寒いだろ」

有無を言わせない手つきで、
一花の肩にかけられた。

「え……」

「いいから」

短い言葉。
でも、強くはない。

上着に包まれて、
さっきまでの冷えが、少しだけ和らぐ。

「あ……ありがとう」

桐谷は、小さく頷いた。

少し間があって、
桐谷が、マットの端を指さす。

「……隣、いいか」

一花は、驚いて一瞬固まる。

でも、断る理由はなくて。

「……うん」

小さく答えると、
桐谷は、慎重に隣に腰を下ろした。

近い。
でも、触れない距離。

肩と肩の間に、
わずかな空間が残っている。

それなのに、
さっきより、ずっと落ち着く。

二人分の呼吸が、
静かな倉庫に、ゆっくり溶けていく。

外では、
まだ誰かの足音がしているのに、
ここだけ、時間が止まったみたいだった。