名前のない香水

手に触れた、そのあとも。
指先には、まだ温もりが残っていた。

――暖かい。

甘い香り。
――桐谷くんから、こんな香りがするなんて。
怖い印象、近寄りがたい印象の彼から漂うのは、思った以上に柔らかくて、甘くて、少しドキッとする香りだった。

なんだか、今まで抱いていた印象とはまるで違う。
もしかして、本当は優しい人なのかな。

どうしてこんな気持ちになるんだろう。
触れた手の感触、そして香り。
その二つが、胸の奥で小さな波紋を広げる。

――なんだろう、この気持ち。

一花は思わず手元を握り直し、心の中でそっとつぶやいた。
それは、戸惑いと少しの期待が混ざった、不思議な感覚だった。