名前のない香水



次の瞬間――

「きゃあああっ!!」

予想以上の悲鳴。

思わず、肩がびくっと跳ねる。

(……驚いて、る?)

驚いているというより、
完全に叫んでいる。

通り過ぎていく足音が、
やけに早い。

(……やりすぎたか)

そんなことを考えていると、

「おい、桐谷」

隣の影が、ひそっと声をかけてきた。

「それ、やりすぎだろ」
「驚かせるっていうか、ガチで怖い」

一瞬、言葉に詰まる。

「……そうか」

自分では、加減していたつもりだった。

「でもさ」
「客、めっちゃ悲鳴上げてたし、効果はあるけどな」

そう言われても、
素直に喜べない。

(……これで、いいのか)

暗闇の中で、
桐谷はもう一度、息を整えた。

そして、また思ってしまう。

(……一ノ瀬さん、ちゃんとやれてるかな)

目の前の役に集中しなきゃいけないのに、
頭の片隅には、ずっと彼女がいた。