名前のない香水

少し、ぼーっとしていた。

教室の外から聞こえてくる笑い声や足音が、
遠くで混ざり合って、現実感が薄れる。

「一花、大丈夫?」

夢の声で、はっとする。

「ほら、出し物の受付担当、一番最初でしょ。行かないと」

「あっ……そうだった」

慌てて立ち上がり、受付の机に向かう。

「いらっしゃいませ」
「こちら、整理券になります」

自分の声が、意外とちゃんと出ていて、
少しだけ安心する。

人の流れ。
笑顔。
文化祭特有の、浮き立つ空気。

その中で、ふと胸の奥がざわついた。

――桐谷くん、今どこにいるんだろう。

考えるつもりなんてなかったのに、
気づけば、そんなことを思っている。

お化け屋敷の方角に、
無意識に視線が向いていた。