名前のない香水

それ以上、特別なことは起きなかった。

文化祭の準備は、予定通りに終わった。

けれど——

あの日の違和感だけが、
一花の胸に、静かに残っていた。



実は、文化祭当日、一花は少し不安だった。
人混みが苦手で、いつもならなるべく目立たないように、静かに過ごそうと心がけていた。

でも、今年は違う。
胸の奥が、なんだか落ち着かない。

――桐谷くんのせいかな。
悪い意味じゃない。むしろ、どこか安心できる。
ふわりと、制服の隙間から甘い香りが届くような気もして、自然と背筋が伸びる自分に気づく。

文化祭当日。
校内は、いつもより暗くて、
いつもより、ざわついていた。