名前のない香水


「……桐谷くん」

ガーゼを替えてもらいながら、
一花は、ずっと引っかかっていたことを口にした。

「どうして、あの場所にいたの?」
「あの時間、別の場所で作業してたよね?」

一瞬だけ、
桐谷の手が止まる。

「……たまたま、教室に戻った」

視線は、指先のまま。

(距離と、角度的に……)
(廊下から、見える位置だった)

口には出さず、
心の中でだけ、そう思った。

「そしたら」
「ケガしてる一ノ瀬さんが、目に入った」

それ以上は、言わなかった。

――嘘じゃない。
でも、全部でもない。

(……ほんとに、たまたま?)

一花の胸に、
小さな違和感が残る。