名前のない香水

桐谷に指先が、一花の手に触れた瞬間――

――冷たい。

思わず手を止め、驚いた。
小さくて、細くて、柔らかい。壊れそうで、守ってあげたくなる。

どうしてこんなに冷たいんだろう。

ほんの一瞬の触れ合いなのに、胸の奥がぎゅっとなる。
守ってあげたい――家族のように大切に思う感情が、自然と湧き上がった。

手が離れると、温もりは消えてしまう。
でも、触れた瞬間の感触は、心に小さな痕を残した。

桐谷は前を向き、何事もなかったように振る舞う。
それでも、頭の片隅では、もう一度あの手の温度を確かめたい――
そんな思いが、静かに芽生えていた。