名前のない香水


痛みも、
恥ずかしさも、
全部が一度に押し寄せてきて、
頭が、追いつかない。

でも。

桐谷くんが来た瞬間、
止まっていた時間が、
また動き出す気がした。

廊下に出たとき、
桐谷くんが小さく息を吐いた。

「……遅くなって、ごめん」

それだけ。

理由も、説明も、慰めもない。
けれど、その一言で、
一花は、すべてを悟ってしまった。

甘い香りが、すぐそばにある。

その距離の近さに、
安心と、戸惑いと、
名前のつかない想いが、
静かに混ざり合っていった。