名前のない香水

周囲が、ざわついた。

「……え、桐谷?」

誰かが小さく声を漏らす。

無口で、近寄りがたい。
少し怖いと噂される男。

そんな桐谷が、
何も言わずに、一ノ瀬さんの前に立っている。

声をかけるでもなく、
理由を説明するでもなく。

ただ、迷いのない動きで距離を詰めた。

誰も止めなかった。
誰も、何も言えなかった。

その場にいた全員が、
「見てはいけないもの」を
見ているような気がしていた。