名前のない香水

一ノ瀬さん最後まで走れるんだろうか。

校庭に整列する一ノ瀬さんの姿を、
つい目で追ってしまう。

声をかける理由も、
止める権利もない。

ただ同じクラスにいる、それだけのはずなのに、
視線が離れなかった。

準備運動が始まる。

腕を回し、体を伸ばしながらも、桐谷の意識は一ノ瀬さんの動きに向いている。

少し遅れるタイミング。伏せられた視線。
それが気のせいだと言い切れない自分が、妙に落ち着かない。

(なんで俺は、こんなに気にしてるんだ)

理由は分からない。
ただ、無事にゴールしてほしい。
それだけを、静かに願っていた。