名前のない香水

一限の授業中、桐谷はどうしても一ノ瀬さんの方に目が行ってしまう。

ノートを開く手、微かに震える指先、
少し乱れた呼吸。

――やっぱり、こないだの廊下のことは気のせいじゃないのかも。

でも、どうすることもできない。

見ているだけしかできない自分がもどかしい。

何か声をかけたら、余計に迷惑かもしれない。

だから、ただ見るだけ。

そんなこと考えてたら、

突然先生が「桐谷、この問題わかるか?」

先生の声に、一瞬ハッとする。

周りの視線が桐谷に集中する。

あ、やばい。
全然頭が働かない。

一ノ瀬さんのことが気になって、
授業の内容は完全に上の空だった。

必死にノートを見返し、答えを口に出そうとするが、うまく言葉が出てこない。

心の中で、「しっかりしろ、俺」と何度も繰り返す。

答えられないでいると、
「桐谷、ちゃんと話聞けよ」
と先生に言われた。

先生の声に、ハッとして慌てて答える。

「あっはい!」