名前のない香水

「……一花」

震える声が、春の風に乗って彼女の背中に届く。

桃色の波の中で、その肩がびくりと揺れた。

ゆっくりと、
大切に時間をかけるように、彼女が振り返る。

逆光の中に浮かび上がったのは、
二年前の冬に置いてきた彼女じゃなかった。

少し伸びた髪。
光を透かす頬。

そして――

二年間、夢に見続けた瞳が、
まっすぐに俺を捉えた。

「……見つけてくれたんだね。凰雅くん」

ふわり、と笑う。

涙が零れているのに、
その表情は、どこまでも晴れていた。

俺は、何も言えなかった。