名前のない香水

あの日、机の上で指先が触れた瞬間。

冷たくて、小さくて。
でも、確かに温もりがあった。

ほんの一瞬なのに、胸がざわつく。

桐谷は忘れられない。

偶然の接触だったのかもしれない。
それでも、何度も思い出してしまう。


一花も覚えている。

冷たいのに、温かかった手。

そして、あの甘い香り。

――なんだろう、このざわめき。


触れた体温と香りが、
二人の距離をほんの少しだけ近づけた。

まだ名前を知らなかった。