名前のない香水

人混みの中、彼女の面影を探しながら、
俺は無意識に自分の右手の指先をさすっていた。

何度季節が変わっても、
あの感触だけは、掌が覚えている。

二年前の四月八日。

偶然触れた、一花の指先。

――冷たい。

それが、すべての始まりだった。

春の陽気の中でも、
彼女だけが冬に閉じ込められているみたいで。

小さくて、細くて、
今にも壊れてしまいそうで。

その瞬間、思った。

恋とか、そんな綺麗な言葉じゃなくて。

ただ、

この手を、温めたいって。