名前のない香水

それだけじゃない。

触れた瞬間、鼻腔を掠めたあの香り。

クールで、少し怖いと噂されていた彼から漂うには、あまりに不釣り合いな、甘くて柔らかな春の気配。

怖い人だと思っていた。関わってはいけない世界の人だと思っていた。

なのに、その体温と香りに触れた瞬間、私の中にあった「誰にも心を開かない」という誓いが、音を立てて崩れていった。

「……どうして、あんなに温かかったんだろう」

あの時、名前さえつけられなかったあのざわめき。

あれから二度、季節が巡った。

今、私の目の前には本物の春が広がっている。

二年分の孤独を越えて、私は今、あの温もりをもう一度確かめたくて、ここに立っている。