名前のない香水

視界の端から端までを埋め尽くす、桃色の波。

春の柔らかな風に揺れる花々を眺めていると、意識は不意に二年前のあの教室へと引き戻される。

あの日。隣り合わせた机の上で、指先が触れた瞬間。

「あ……」

私の指先は、氷のように冷え切っていた。

持病のせいで、体温を保つことさえ上手くいかない私の身体。

誰にも知られたくない。誰にも触れられたくない。

私の「弱さ」そのものが、あの一瞬に凝縮されていた。

――けれど。

触れた彼の指は、驚くほど熱を持っていた。

痺れるような温もりが、冷え固まった私の心を溶かすように流れ込んできて。

冷たい自分と、温かい彼。その決定的な違いに、心臓が痛いほど跳ねたのを覚えている。