名前のない香水

二度目の冬が、静かに終わりを告げようとしていた。

大学の講義、アルバイト、新しい友人。
それなりに忙しい日々を過ごしていても、俺のスマホの通知だけは、あの日からずっと、凪のような沈黙を守ったままで。

二年前のあの日、彼女に直接渡すことのできなかったチューリップの残像が、今も瞼の裏に焼き付いている。

二月。
凍てつくような風の中に、わずかに春の匂いが混じった午後のことだった。

机の上で震えた画面に、二年間待ち続けた名前が浮かんだ。

一度、息が止まる。

『一ノ瀬一花』

震える指で開いた画面には、祈りのような言葉が並んでいた。

『連絡が遅くなってごめんなさい。
突然なんだけど、チューリップが咲く頃、四月八日に地元で会いましょう。

昔から春になると、一面が桃色になるあの場所で。

――広すぎる桃色の中で、私を探してね。

凰雅くんなら、きっと見つけてくれるって信じています。』

それは、あの日引き裂かれた「約束」を、彼女が今も抱きしめてくれていた証だった。